(仮訳)
2022年2月24日は、私たちの欧州大陸の歴史における時代の大きな転換点となりました。ロシアのプーチン大統領はウクライナに侵攻し、冷血に侵略戦争に踏み切りました。その理由はただひとつ。ウクライナの人々の自由が、大統領自身の抑圧体制を脅かしかねないからです。これは人間蔑視です。国際法違反です。何によっても何人によっても正当化することはできません。
キエフ、ハルキウ、オデッサ、マリウポリの惨状を伝える映像は、プーチンの非情さそのものを示しています。耐え難い不正義とウクライナの人々の苦しみが、私たち皆の心にとてつもなく重くのしかかります。
ここ数日、夕方の食卓で市民の皆さんが口にするであろう疑問や、恐ろしい戦争のニュースで胸かき乱される皆さんの不安がいかなるものか、私にはよくわかります。私たちの多くは、親や祖父母から戦争の話を聞いた記憶がありますが、若い人々にとっては、「欧州での戦争」などほとんど想像もできない事態です。多くの人々が、全国で、そしてここベルリンでも、感じた恐怖を声に出し訴えています。
私たちは時代の転換点を目の当たりにしています。世界がこれまでと同じものではなくなるということです。究極的に問われているのは、力で法を破ってもよいのか、19世紀の列強の時代へとプーチンに時計の針を戻させてよいのかということです。それともプーチンのような戦争屋に一線を越えさせないよう力をふりしぼっていくのか。
そのためには私たち自身に強さが必要です。
そうです。私たちには、私たちの自由、民主主義、豊かさを守っていく意欲と意思があります。議長、本日はこの点について政府の考えを説明するための特別会議を開催していただき大変感謝しています。連邦議会の全ての民主的会派の院内総務各位には、本日の会議開催にご賛同いただき感謝いたします。
皆様
プーチンはウクライナ侵攻で、一独立国家を世界地図から抹消しようとしているだけでなく、ヘルシンキ最終文書で合意されて以降ほぼ半世紀にわたり守られてきた欧州の安全保障の秩序を粉砕しているのです。さらに国際社会全体において自らを孤立させています。
世界各地のドイツ大使館は、フランスとともにこの数日、国連安保理において、ロシアの侵略を恥ずべき国際法違反であると事実どおりに名指しすべきである旨訴えてきました。安保理における審議の結果を見ると、成果はあったと言えます。審議では、私たちの平和へのコミットメントに同調する国々が多数あるということが示されたからです。私たちはこのコミットメントを全力で継続していきます。そして国連で達成された成果について、ベアボック外務大臣には深く感謝しています。
ロシアは安保理常任理事国として、拒否権という緊急手段に訴えることで、かろうじて自らに対する非難決議を阻止したのです。何という恥さらしでしょう!
プーチン大統領はよく、「安全保障の不可分性」という概念を口にします。しかし彼が実際にやろうとしているのは、正に欧州を武力によって旧来の勢力圏に分けることなのです。これは欧州の安全に影響します。確かに欧州の安全は、長期的にはロシアに対抗する形では確保できないでしょう。しかし当面について言えば、この安全を脅かしているのはプーチンのほうなのです。このことははっきり言っておかねばなりません。
時代が私たちに課した課題を、私たちは冷静かつ決然と引き受けていきます。
五つの行動を起こしていかなければなりません。
第一に、この絶望的な状況下のウクライナを支援していかなければなりません。これは、これまで数週間、数か月、数年にわたり相当の規模で行ってきました。しかしウクライナに対する攻撃で、私たちは時代の新たな局面に入りました。キエフ、ハルキウ、オデッサ、マリウポリで、人々が守っているのは彼らの故郷だけではありません。自由と彼らの民主主義のため、私たちと共有する価値のためにも戦っているのです。
民主主義者として、欧州人として、私たちは彼らと共にあります。そして歴史の正しい側に立っています。
木曜日(※注 2月24日)、プーチン大統領は、ウクライナへの攻撃で新たな現実を作り上げました。この現実にははっきりとした対応が必要です。私たちはすでに対応を行っています。ご存知の通り、昨日ドイツとしてウクライナに国を守るための武器を供与すると決めました。
プーチンの侵略に対する対応として他の選択肢はありませんでした。
皆様
私たちに求められている二つ目の行動は、プーチンの戦争路線をやめさせることです。戦争はウクライナにとり壊滅的事態です。しかし、ロシアにとっても壊滅的なものだということがわかってくるでしょう。
私たちはEU各国首脳とともにこれまでなかったような規模の制裁パッケージを決定しました。ロシアの銀行や国有企業を資金調達から切り離します。先端技術のロシアへの輸出をストップします。オリガルヒと彼らのEU内の預金に狙いを定めます。さらにプーチンとその側近たちへの制裁を行い、ロシアの政府関係者に対するビザ発給の制限を行います。
さらに、ロシアの重要な金融機関を銀行間通信ネットワークSWIFTから排除します。これについては昨日、最も経済力のある民主主義諸国とEUの首脳間で合意しました。
ただし思い違いをしてはなりません。プーチンはその方針を一晩で変えるようなことはしないでしょう。しかし、ロシアの指導層はほどなくして、いかに高い代償を払うことになるかを思い知るでしょう。先週だけでも、ロシアの株価は30%下落しました。これは、私たちの制裁が効いている証拠です。さらに私たちは追加制裁の可能性も排除しませんし、いかなる選択肢もタブー視しません。
責任者にとって最も厳しい措置は何か。この問いが私たちの基準となります。狙いは責任者であり、ロシアの国民ではありません。
戦争を選んだのはプーチンでありロシアの国民ではないからです。ですから明確にこの戦争は、プーチンの戦争だと言明しなければなりません。
この違いを私は重視します。ドイツとロシアが第二次大戦後達成した和解は、両国共通の歴史の重要な一章であり続けるからです。
そして現在の状況が、特に多くのウクライナ出身、そしてロシア出身の市民の皆さんにとりいかに耐え難いものであるかということも承知しています。ですからプーチンと自由世界のこの戦いが、古い傷を開いたり、新たな対立の火種を生んだりする事態を私たちは許しません。
また忘れてはならないのは、ロシアの多くの町においてこの数日間、プーチンの戦争に対する市民の抗議運動が起きているということです。逮捕や処罰も辞さずに行動しているのです。
これは、大きな勇気と勇敢さを必要とする行動です。
ドイツは今、ウクライナの人々と共にあります。私たちの思いと共感はロシアの侵略戦争の犠牲者の人々に向けられています。しかしまた、私たちの思いは、ロシア国内でプーチンの権力機構に勇敢に立ち向かい、ウクライナとの戦争にノーの声を上げる人々とも共にあります。そうした人々の数が多いことを私たちは承知しています。
その人々に対し、どうか諦めないでいただきたいと申し上げたい。自由、寛容、人権はロシアでも勝利するのだと確信しています。
皆様
三つ目の大きな課題は、プーチンの戦争が欧州の他の国々に飛び火するのを阻むことです。すなわち、いかなる前提もつけず、NATOの防衛義務を守るということです。
このことは、自国の安全に懸念をもつ中東欧のNATO加盟国にも伝えました。同盟パートナーとともに、1平方メートルたりともおろそかにせず域内領域の防衛にあたるという私たちの決意を、プーチン大統領は過小評価してはなりません。
私たちはいたって真剣です。ある国を加盟国としてNATOに受け入れるということは、その国を自国と同じように防衛していくという同盟国の意志の表れなのです。
すでに連邦軍は、東側の同盟諸国の支援を強化しており、今後も強化を続けます。こうした重要な姿勢を示した国防大臣に感謝します。リトアニアにおいて、ドイツはNATO部隊のリード国を務めており、部隊の増強も行いました。ルーマニアでは防空任務(エアポリシング)への参加を延長・拡大しました。また、スロバキアでの新たなNATOユニットの立ち上げにも加わります。海軍は追加の艦船を派遣し、北海、バルト海、地中海の安全確保への貢献を進めます。さらには、対空兵器を用いて東欧同盟諸国の防空に貢献する用意もあります。
兵士の皆さんにとっては、これら任務への準備を行う時間もほとんどないほど慌しい日々でした。議員各位とともに、ここに兵士の皆さんに心から感謝を述べたいと思います。
重要な任務を、とりわけ現下の状況において遂行してくださっていることに感謝します。
皆様
プーチンの侵略が時代の転換点をもたらした今、欧州の平和確保に必要とされることを実行するというのが私たちの基本姿勢となります。ドイツはそのための連帯的貢献を行っていきます。しかしこのことを本日、明確かつ誤解の余地がない形で明言するだけでは不十分です。そのためには、連邦軍に新しく強力な能力が必要だからです。
そしてここで、四点目となりますが、歴史的内容を扱ったプーチンの論文を読んだ人、彼のウクライナに対する宣戦布告をテレビで見た人、あるいは、先日の私のように何時間も直接彼と話をした人は、もはや一点の疑念もなく、プーチンが目指すのはロシアの帝国建設なのだと悟るでしょう。彼は、欧州の状況を自分の考えに合わせ根底から作り替えようとしており、その際、武力行使も辞さないのです。正にそのことを今私たちはウクライナで見せつけられています。
ですから、プーチンのロシアが保有する能力はどのようものか、そしてその脅威への対処のため私たちに現在、そして今後必要とされる能力はどのようなものなのかを考えなければなりません。
私たちの自由と民主主義を守るため、国の安全への投資を大幅に拡大しなければならないというのは明確です。
これは国として相当大変な事業となります。目指すのは、高いパフォーマンスと最新かつ先端の能力を保有する連邦軍、私たちを確実に守ってくれる連邦軍です。
一週間前のミュンヘン安全保障会議で、私は次のように述べました。航空機は飛ばなければ、艦船は出航できなければ、また兵士たちは任務に見合った適切な装備を与えられなければだめだと。私たちにとり重要なのはこの点であって、私たちの国の規模、欧州における重要性に鑑みればそれは達成可能なはずです。
しかし思い違いをしてはなりません。装備の改善、技術の刷新、人員の増強 ― これらは全て多くの財源を必要とします。そのため、私たちは連邦予算に「特別財産『連邦軍』」を計上します。これを支援してくれたリントナー財務大臣に深く感謝しています。2022年の連邦予算において、この特別財産は今回のみの計上とし1000億ユーロとします。これを使って必要な投資と装備計画を進めていきます。また私たちはこれから毎年、GDPの2%以上を国防のために支出していきます。ドイツ連邦議会の全ての会派の皆様に申し上げます。どうか、この特別財産を基本法で定めることにご賛同ください。
ここでひとつ付け加えたいと思います。私たちがこの目標を目指すのは、2024年までに防衛支出を経済規模の2%まで引き上げると、友人たち、同盟パートナーたちに約束したからだけではありません。これは私たち自身のため、私たちの安全保障のためでもあるのです。もちろん、将来あり得るあらゆる脅威を連邦軍の持つ手段だけで押さえ込むことができないのは認識しています。だからこそ、強力な開発協力が必要なのです。
だからこそ、私たちは技術的にも社会全体としても、例えばサイバー攻撃や偽情報、また重要インフラや通信ネットワークへの攻撃に対するレジリエンスを強化していくのです。私たちはまた、最新の技術水準を維持していきます。例えば次世代の戦闘機や装甲車を、とりわけフランスをはじめとする欧州のパートナーたちとともに、ここ欧州で生産していくことを大変重視しているのもそのためです。これらのプロジェクトは、私たちにとり最優先すべきものです。
新たな航空機が使えるようになるまでは、ユーロファイターの共同開発を続けていきます。そして今週、「ユーロドローン」の契約にようやく署名ができたのもよかったと思います。イスラエル製の武装無人航空機「ヘロン」の調達も進めます。核共有については、古くなったトルネードを早めに更新していきます。ユーロファイターは電子戦の能力を搭載していきます。F35は、運搬手段として検討可能です。そして私たちは我が国の確実なエネルギー供給の確保に向けた取組みを強化していきます。
政府は、そのための重要な政策をすでに進めています。そして私たちは方向転換を行っていきます。個別のエネルギー供給元への輸入依存を克服するための方向転換です。この数日、数週間に起きたことが示しているように、責任ある、先見性のあるエネルギー政策は、私たちの経済や気候保全のためだけでなく、私たちの安全保障のためにも決定的に重要なのです。ですから、再生可能エネルギーの拡充は、早ければ早いほどよいのです。
私たちは正しい方向に向かっています。先進国として2045年までのカーボンニュートラル達成を目指しています。この目標を見据えつつ、石炭やガス備蓄の増強など、重要な決断を行っていく必要があります。ですから、天然ガスは、いわゆる長期オプション経由で、備蓄量を20億立米拡大することを決めました。さらに、EUとの調整のもと国際市場において天然ガスの追加購入を行います。そしてまた、ブルンスビュッテルとヴィルヘルムスハーフェンの2か所に、液化天然ガス(LNG)ターミナルを速やかに建設することにしました。ハーベック経済大臣の尽力には心から感謝したいと思います。
短期的に今必要な措置を、長期的なエネルギー転換のためいずれにせよ必要であった措置につなげていくことは可能です。LNGターミナルは、今はガスの備蓄に使いますが、将来的にグリーン水素の備蓄にも使っていくことができるのです。
そしてこうした中、高水準で推移するエネルギー価格にはもちろん注意を払っていきます。プーチンの戦争は、一層の価格上昇をもたらしました。そうしたことから私たちは今週、負担軽減のためのパッケージについて合意しました。これは、再エネ賦課金の今年中の廃止、通勤概算控除の拡大、低所得者向けの暖房費補助、子育て家庭への補助、各種税負担軽減措置を含むものです。
政府はこれを迅速に前に進めていきます。私たちのメッセージは明確です。市民の皆さん、企業の皆さんを、この状況下で置き去りにしないということです。
皆様
この時代の転換が影響を及ぼすのは我が国のみではありません。影響は欧州全体にも及びます。そしてここでも、試練と可能性の両方が私たちを待ち受けています。試練というのは、EUの自律性を持続可能な形で長期的に強化しなければならないという試練です。可能性というのは、この数日、「制裁パッケージ」でも見られたように、欧州としての結束を維持していくなかで開ける可能性です。ドイツをはじめEUのすべての加盟国が、EUからどんな利益を得られるかを問うばかりでなく、EUのために最良な決断は何かを考えていくということです。
欧州は私たちが活動する際の枠組みです。その理解があって初めて、私たちは直面する試練を乗り越えることができるのです。
ここで、最後の五つ目の点に移ります。プーチンの戦争は、私たちの外交にとっても転換点となったということです。ナイーブさを排しつつも、可能な限り外交で物事を解決するという姿勢は今後も追求していきます。しかしナイーブさを排するということは、対話を自己目的化させないということでもあります。
真の対話は、双方にその用意がなければ成立しません。しかし明らかにプーチンの側にはその用意が欠けている。これは何も数日前、数週間前に始まったことではありません。
これは今後について何を意味するのか。私たちはロシアとの対話を拒みません。今のような極限の状況にあっても、対話のチャンネルを開けておくのが、外交の役目です。それ以外のやり方は、無責任だと思います。
皆様
私たちは、自らの歴史に照らしてみても、自分たちが何を守るべきなのかをわかっています。私たちは欧州の平和を守ります。武力が政治の手段として使われる状況を受け入れることは決してありません。私たちは、対立や紛争が平和的に解決されるよう絶えず求めていきます。私たちの取り組みは欧州の平和が確保されるまで、休むことはありません。
私たちには仲間がいます。欧州と国際社会の友人やパートナーがいます。私たちの最大の強さは、そうした仲間との同盟や結びつきです。それらがあるからこそ、我が国は30年以上にわたって、統一ドイツにおいて豊かさと近隣諸国との平和を享受できているのです。
この30年が、歴史の例外的な一時期に過ぎなかったということにならないように、欧州連合の結束を保ち、NATOの強さを維持し、世界中の友人、パートナー、志を同じくする国々とより緊密な関係を築いていくため、あらゆる手立てを尽くさなければなりません。私はその実現を強く確信しています。私たちとパートナーが今ほど決意と結束を強くしたことは、これまでほとんどなかったからです。
私たちはこの数日、自由な民主主義諸国の強さについての認識をともに強くしています。社会や政治において幅広い合意形成を経た事柄は、今のような時代の変わり目においても、またその先においても持続するのです。ですからロシアのウクライナ攻撃を、独立国家に対する、そして欧州と世界の平和秩序に対する、何によっても正当化され得ない攻撃として断固非難した連邦議会のすべての会派の皆様に感謝します。本日の決議案が、このことを明確に表しています。
またこの数日間、プーチンの戦争に明確に反対する立場を表明した皆さん、ここベルリンや他の場所で平和的な集会に集まった皆さんに感謝します。そして私たちとともに、自由で開かれた、また公正で平和な欧州を追求してくださる皆さんに感謝します。私たちはそうした欧州を守っていきます。