インド太平洋との連携に新たな推進力
ドイツもEUも、インド太平洋地域を戦略的に重視しており、それぞれ2020年と2021年、「インド太平洋ガイドライン」と「インド太平洋戦略」を決定した。インド太平洋地域は近年、経済的にも、政治的にもその重要性を増してきた。同地域には世界で最も急速な経済成長を示す国々がある。他方、同地域は世界全体のCO2排出量の約6割を占めている。また、中国と米国が大国間競争を繰り広げる主要舞台ともなっている。現在EU議長国を務めるフランスは、2月22日、EU加盟国とインド太平洋地域各国の外務大臣並びに国際機関の代表による会合(「インド太平洋閣僚会合」)を主催する。その目的は、EUとインド太平洋の連携に新たな推進力をもたらすことである。安全保障、デジタル化、連結性、気候変動、生物多様性、国際保健が会合の主要テーマとなる。
気候・生物多様性・海洋の保全
グローバルな課題を解決するには、一致協力した対応が不可欠である。とりわけ地球温暖化の防止や気候変動の影響への適応においてはそうである。CO2排出が世界で最も多い10か国のうち5か国がインド洋か太平洋に面した国々である。同時に気候変動は、インド太平洋地域の人々の生活基盤を脅かしてもいる。バングラデシュやベトナムといった国々では、人口の半数もの人々が、海面上昇による沿岸部の浸食による被害を受けかねない。また1月末、トンガの人口の8割の生活基盤を破壊した津波等、自然災害はその頻度や規模が拡大している。こうした状況は、貧困や格差の深刻化をもたらし、対立の激化や情勢の不安定化につながる。それゆえドイツは、インド太平洋地域の国々と協力し、排出削減や温暖化の影響緩和を目指し取り組んでいる。さらに、同地域における生物多様性や海洋の保全のためにも積極的に活動している。またEUは、今回のインド太平洋閣僚会合を前に、ASEAN域内の持続可能な連結性の拡充と海洋保全の強化にそれぞれ資するイニシアチブを新たに2件立ち上げた。ドイツは、総額2400万ユーロ以上の資金を投じ、双方のイニシアチブにおいてプロジェクトを実施する。
インド太平洋地域の安全保障問題
インド太平洋地域はいくつもの未解決の領土問題を抱えている。これに加え、歴史的な対立があり、かつまた中国と米国の大国間競争が激化している。同時にこの地域には、集団的な信頼醸成の枠組みがない。こうしたことにより、この地域における軍事支出は世界で最も急速に増加している。その結果、安全保障情勢は不安定で、小さな偶発事故がきっかけで大きな紛争に発展する危険性をはらんでいる。
ドイツとEUは、同地域における安全保障分野の活動を拡大することにより、ルールに基づく国際秩序の強化に貢献したいと考えている。その一環として、国連海洋法条約(UNCLOS)といった国際ルールの枠組強化に向けた協力を進める。またEUは、今回の外相会合において、今後インド洋北西部にて加盟国海上部隊の艦艇を用いた連携調整のもとで海洋情勢の分析を実施する方針を発表する。
欧州のインド太平洋政策に推進力
インド洋と太平洋にまたがるこの地域は、世界人口の半数を擁し、世界のGDPに占めるインド太平洋地域の割合は約4割にものぼる。ドイツもEUも、世界の経済と政治における同地域の重要性の拡大を受け、一昨年と昨年、それぞれのインド太平洋戦略を決定したが、その背景には、欧州自身の安全と豊かさにとっても同地域の安定性は極めて重要だという確信がある。