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第6回日本国際風力発電展示会・会議 ジグムント大使の基調講演

31.10.2024 - 記事

ご出席の皆様

 洋上風力発電は、大きな期待が寄せられているセクターです。本日は第6回日本国際風力発電展示会・会議にて、世界中からお集りの重要なステークホルダーのみなさまにご挨拶させていただけることを大変嬉しく思います。私たちは今、歴史における重要な岐路に立たされています。昨年、ドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、再生可能エネルギーによる発電容量を2030年までに世界全体で3倍に引き上げ、秩序ある、公正かつ公平な方法で化石燃料からの脱却を加速するなど、2030年までに世界が目指すべき主要な目標が参加各国政府により初めて掲げられました。それからほぼ1年が経過し、COP29が間近に迫った今、私たちはこの目標の実行に目を向け、特に、パリ協定に基づいた「NDC(国が決定する貢献)」のアップデートを進めていかなければなりません。

 今日、私たちの世界は政治的分断や地政学的な変化に直面しています。各国の政権が変わったとしても、世界規模でエネルギー転換と脱炭素化を加速するための私たちの取り組みは変わりません。なぜなら、1.5℃目標を達成するために残された時間は刻一刻と過ぎているからです。エネルギー安全保障、経済安全保障、気候安全保障という3つの課題はますます密接に影響を及ぼし合っていることから、私たちはこれらの課題に並行して取り組んでいかなければなりません。

 経済安全保障には、エネルギーの安定供給と信頼できるサプライチェーンが不可欠です。ロシアによるウクライナ侵略戦争以降、ドイツはロシア産の化石燃料に対する依存度を迅速に減らし、再生可能エネルギーへの移行とエネルギー効率の向上を加速させる必要に迫られました。私たちは、ドイツのエネルギー安全保障にとって再生可能エネルギーがいかに重要かを学んだのです。

 エネルギー転換は、ドイツの気候変動対策、エネルギーの安定供給、そして、経済成長において重要な役割を担っています。エネルギー分野が温室効果ガス排出の最大の要因であるため、エネルギー転換は、2045年までに気候中立を達成するというドイツが掲げる目標の鍵となります。2024年上半期、ドイツの電力需要の57%が再生可能エネルギーでまかなわれました。一時期、ドイツの需要電力をすべて再生可能エネルギーで占めたこともありました。今年上半期には、風力発電の割合が電源構成の33%に達し、石炭火力を上回って、国内の発電における最も重要なエネルギー供給源となりました。

 ドイツで洋上風力発電に適した場所は主に「排他的経済水域」にあり、その面積は3万3000平方キロメートルしかありません。これは、約450万平方キロメートルを有する日本の排他的経済水域の1%にも満たないものです。利用可能な洋上面積が限られているため、その計画にあたっては高い効率性が求められますが、私たちは挑戦を続けます。2009年に35メガワットだったドイツの洋上風力発電の設備容量は、2024年前半には約9ギガワットに達しています。私たちは2030年までに少なくとも30ギガワット、2045年には70ギガワットの達成を目指しています。

 近年、洋上風力の発電容量の拡大ペースが鈍化しています。現在のところ、2030年末までに27ギガワットを送電網に接続できる見込みとなっており、目標達成まであと一歩です。洋上風力発電の拡大において最も重要なのは、入札方式の効率化、計画および承認手続きの合理化、環境アセスメントの一元化です。これにより、計画の安全性が確保され、投資がより魅力的なものとなるでしょう。最近の例をひとつご紹介いたします。今年6月、北海の2カ所の地域を対象とした総設備容量2500メガワットの大規模案件の入札が公示されました。落札価格は総額30億ユーロ、日本円にして4870億円でした。落札者には現在、この地域での風力タービンの建設・運営に関する計画認可手続き、ならびに送電網への接続容量の権利が付与されています。

 洋上風力発電は、再生可能エネルギーが国全体に付加価値と経済的利益をもたらすことを示す好例です。ドイツの洋上風力発電産業は、2万1400人のフルタイム雇用を創出し、74億ユーロ(1兆2000億円)の経済効果を生み出しています。バリューチェーンの構成要素を詳しく見てみると、洋上風力発電所の建設によって生み出される付加価値は沿岸地域に限らず、ドイツ全土に広がっていることが分かります。例を挙げますと、ドイツ最大のエンジニアリング業が集積するドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州に雇用が集中しており、ハンブルクに次いで最大の売上高を誇っています。加えて、ノルトライン=ヴェストファーレン州、バイエルン州、ヘッセン州をはじめ、旧東独地域の各州でも展開される、エンジニアリング、研究開発、金融といった、高度に専門化された産業がバリューチェーンに貢献しています。野心的な目標を前に、洋上風力産業は研究開発からプロジェクト開発、運用、廃止、リサイクルに至るバリューチェーン全体にわたり、キャリア形成の機会として、今後ますます魅力的な分野になることが期待されています。

 その一方で、日本に目を向けますと、ドイツで見られるチャンスや可能性の多くがここでも進展していることが分かります。洋上風力発電において日本が備えるポテンシャルは計り知れません。世界銀行と世界風力エネルギー会議によれば、日本はその地理的条件から550ギガワットの潜在的な発電能力を有しています。日本風力発電協会によると、日本は現在のわずか5ギガワットから2050年までに140ギガワットに増強できる潜在能力を持ち、そのうち100ギガワットを洋上風力で発電できるとされています。これが実現すれば、日本は電力需要の約3分の1を風力発電でまかなうことが可能になるでしょう。

 多くのドイツ企業がこの巨大な可能性に着目し、日本市場への参入を果たしています。日本の洋上風力発電産業は大手企業のみに限定された市場ではありません。バリューチェーン全体で中小企業やスタートアップ企業にもチャンスがあります。日本の洋上風力産業において実績を積んだドイツの大手企業は、日本市場に参入し、日本企業との協力を目指す中小企業にとって先駆的な存在となるでしょう。日独の連携は企業間だけではありません。研究分野における展開の一例として、ブレーマーハーフェン応用科学大学と北九州市立大学が洋上風力発電の分野で協力しており、こうした協力関係は今後、他の日本の研究機関にも拡大される予定です。

 こうした機会を創出し、洋上風力エネルギー分野における日独両国の連携強化のために、日独エネルギーパートナーシップは経済産業省との意見交換を継続的に行っています。私たちはこのエネルギーパートナーシップの枠組みにおいて、技術的なテーマのみならず社会受容性の向上など、幅広いテーマについても企業、市民社会、研究機関等の対話を促進しています。

 「日本国際風力発電展示会・会議」のようなプラットフォームや会議は、風力発電関連産業における幅広い分野で重要なステークホルダー間の交流促進に寄与します。新たなパートナーシップや協力関係、ビジネスチャンスの創出につながることを期待しております。

 ご清聴ありがとうございました。

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