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エバーツ総領事寄稿文 神戸新聞「随想 音楽のこころ」

バッハ作「マタイ受難曲」 / オリジナルスコア Bach, Matthäuspassion / Originalpartitur

バッハ作「マタイ受難曲」 / オリジナルスコア Bach, Matthäuspassion / Originalpartitur, © ©picture alliance / akg-images

06.07.2021 - 記事

 ドイツには「誰かが歌っていたら一緒に腰をおかけ。悪人は歌わないから」ということわざがある。音楽は人間の内なる最良の部分を呼び覚まし、音楽を愛する心は、暴力や卑劣さになびかない。そして人々を結びつける最良のものは音楽であるという、簡素にして美しい考えを表したものだ。


ドイツには「誰かが歌っていたら一緒に腰をおかけ。悪人は歌わないから」ということわざがある。音楽は人間の内なる最良の部分を呼び覚まし、音楽を愛する心は、暴力や卑劣さになびかない。そして人々を結びつける最良のものは音楽であるという、簡素にして美しい考えを表したものだ。


もちろん反例はあり、醜い歌や、攻撃的だったり、悪意があったりする曲もある。しかし、少しでも音楽の心を持つ者なら、それらが病的な例外であることは、すぐに分かるだろう。


ピアニストの辻井伸行 / Pianist Nobuyuki Tsujii
ピアニストの辻井伸行 / Pianist Nobuyuki Tsujii© ©dpa

音楽が人々をつなぎ、人類の共通言語であることを、私たちドイツ人と日本人は幾度となく経験してきた。音楽が、言葉はなくとも心に直接訴えかける無二の芸術であるからであろう。過日、辻井伸行氏のピアノコンサートを聴き、あらためてそう考えた。それは彼自身が東日本大震災の犠牲者に捧げて作った曲で、演奏に涙したのは本人だけではなかった。


音楽は感情の中に消えゆくものではなく、往々にしてその内にメッセージを秘めている。偉大な音楽は、生と死、愛と神といった人類の大きな主題を扱う。私にとってバッハの作品はその最も素晴らしい例だ。彼の音楽はキリスト教信仰によって形作られており、バッハの音楽に流れる信じがたいまでの力と自信は、そこから生まれていると私は確信している。バッハの音楽は心を慰め、勇気づけてくれる。人生で聴くことのできる音楽をただ一つ選ぶとするならば、私は迷わずバロック音楽を選ぶだろう。


だがクラシック、現代音楽、ヨーロッパやアジアの音楽など、いずれを好もうとも、音楽は全ての人に開かれている。プロの音楽家である必要も、楽器が弾ける必要もない。皆が楽しめるものだ。だから、誰かが歌うとき、共に音楽を聴こうとするとき、私もそこに喜んで腰を下ろそうと思う。


 

(神戸新聞2021年7月16日、夕刊「随想」に掲載)

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